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大阪高等裁判所 昭和48年(く)55号 決定

少年 S・S(昭二九・一・三生)

K・D(昭三〇・一二・五生)

S・K(昭二九・二・二一生)

T・A(昭三〇・一一・二八生)

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人徳永正次作成の各抗告申立書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、本件は、少年らの無思慮による女性への好奇心を充たさんとした偶発的な犯行であり、事件後少年らの家族が被害者に慰藉料七〇万円を支払つて示談をなし、被害者の宥恕を得ており、一方少年らの更生について、夫々の家族が熱意を有し、十分これを期待できると考えられるから、原決定(中等少年院送致)は少年らに対し、重きに失し著しく不当である、破棄のうえ在宅の保護観察処分の決定が相当であるというにある。

そこで、一件記録ならびに少年調査記録を精査して検討してみるのに、少年ら四名は少年N・Tと共謀のうえ、婦女を強姦しようと企て、昭和四八年四月一七日午後八時三〇分ころ、長浜市○○町所在国鉄○○駅前において、列車の時間待ちをしていた○森○子(当一九年)を自宅まで送つてやると欺き、右N・T運転の普通乗用自動車の助手席に同乗させ、他の少年らはS・K運転の普通乗用車で右N・Tの自動車に追従し、同所から同市△△町字○○所在の○○不動産株式会社分譲住宅建設予定地の人家も人通りもない空地に連行したうえ、同日午後九時すぎころから、同一〇時三〇分ころまでの間、同所に停車させた右自動車内において、いきなり助手席を後に倒し、仰向けとなつた同女の上に乗りかかつて押えつけ、その着衣を剥ぎ取るなどの暴行を加え、その反抗を抑圧したうえ、右S・K、T・A、K・Dの順に強いて同女を姦淫し、その際右暴行により、同女に対し、加療約一〇日間を要する処女膜裂傷等の傷害を負わせたものである。

少年らの本件非行は、計画的に自動車を利用して、通り掛りの未婚の女性を甘言を用いて、夜間人里離れた淋しい場所に連行し、暴力を用いて着衣を剥ぎ、車内で順次(S・S、S・K、T・A、K・D、ただしS・Sは姦淫せず)被害者を輪姦し、その際、傷害を負わせたという悪質なもので、少年らの警察における供述によると、本件以前本年三月ころにも、少年ら四名でホステスをモーテルに連れ込んで大勢で関係したことがあり、本件非行が好奇心からする偶発的なものではないことが明らかであり、少年といい乍らS・Sはすでに妻帯者であり、他の少年たちも性交の経験者であることが認められる。自己の欲望のため未婚の女性の人生を狂わせた少年らの責任は極めて重大である。少年らの年齢、本件非行の動機、態様、本件非行後の行状、本件非行の社会的影響などを考えると、刑事処分相当として、検察官送致されても止むを得ないところであるが、少年らは親権者、保護者のもとで一応それぞれ職業について稼働しており、車を利用しての余暇の過ごし方に問題があり、中学同窓の少年らがお互い気易さから、ガール・ハントが度を越してお互いの性モラルを麻痺させ、ついに、単独ではなし得ない重大非行を敢行した者で、不良交友が本件非行の一原因と認められるので、少年の処遇について、個別的に、少年各自の非行性の進度に基づいて考え、しかも、各少年の処分の権衡を失わないためには、少年らを刑事処分に付することを避けた原決定は十分にこれを肯認することができる。

ことに、少年らの家族は少年らに代わり、被害者に謝罪し、被害弁償としてすでに七〇万円を醵出して被害者に贈り、被害者との間に示談を成立させているので、右示談成立による被害者の宥恕の事実も少年らに有利な犯情として考慮すべきであると考える。

つぎに、少年らに対する原決定の保護処分(中等少年院送致)の当否について考えるに、

少年S・Sは昭和四七年一一月一八日大津家庭裁判所において、滋賀県青少年保護条例違反、虞犯保護事件で大津保護観察所の保護観察に付するとの決定をうけ、少年K・Dは昭和四八年三月二二日大津家庭裁判所において、窃盗保護事件で大津保護観察所の保護観察に付するとの決定をうけた外、四少年とも、中学時代から暴行、傷害、窃盗などの非行により多数回の補導歴があり、いずれも軽微な非行ではあるが、少年らが地区の不良グループをつくり、車を利用して、大勢でホステスと関係をするような性的非行に発展し、ついに本件非行に至つたもので、少年らの間に多少の年齢の差異はあるが、各自の非行性の進度についてそれほどの差異は認められない。少年らの鑑別結果によると、無思慮、軽佻、雷同性、意思薄弱、即行性など共通の資質がみられ、家庭状況についても、恵まれない境遇の中で、一応の保護者は存在するけれども、いずれも指導、監督能力十分とはいえず、少年らの地域環境、夫々の資質的負因を考慮すると、少年らに対する在宅保護処分はすでにその実効を期待し難いと認められるので、本件非行の重大性、少年らに対する要保護性の存在により、少年らを中等少年院送致の保護処分にした原決定は相当であり、これを著しく不当として破棄するまでの理由はない、論旨は理由がない。

よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 本間末吉 裁判官 西田篤行 栄枝清一郎)

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